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特集

星空をとりもどせ

NOVEMBER 2008

もっとよく知る

文=ブラッド・スクライバー

光害

 光害とは、広義には夜間に不必要な場所で点灯されるすべての人口光を指す。夜になっても明るいままだと、人間はもちろん、数多くの動物たちが体に不調をきたす。人口光などない世界で進化した目やバイオリズムが、混乱してしまうためだ。

 上空へ逃げた光のもたらす害のひとつに、空が明るくなることが挙げられる。光が雲や大気中の塵に当たって広がり、夜空の星が見えにくくなる現象は、徐々に増加している。こちらのサイトの地図を見ると、こうした明るい夜空が地球全体に広がっていることがわかる。この画像は、単に夜の地球を上空から撮影したものではない。雲や塵による光の拡散を計算に入れた上で、地上の特定地点の上に広がる空がどれだけ明るいかを測定し表示しているのだ。この地図からは、世界の人口の大半は、反射光でぼやけた夜空の下で暮らしていることが見てとれる。

 明るい夜空は、市街地の外まで広がり、国境をも越えて続いている。それでも、上空に漏れ出てくるこうした輝きを注意深く観察すれば、光害の発生源である各都市の文化的な側面をかいま見ることができる。こちらのサイトでは、国際宇宙ステーションから撮影した動画を公開している。宇宙に向けて放たれる光を追いかけて世界中をめぐる映像からは、各都市の社会的・地理的特徴が驚くほど鮮明に浮かび上がる。欧州の都市が放つ光は輝くクモの巣のようだし、米国西部には規則正しい格子模様がきらめき、オーストラリアの僻地には小さな光が点在している。

参考資料
Klinkenborg, Verlyn. “Our Vanishing Night.” National Geographic (November 2008), 102-123.
Cinzano, Pierantonio. The World Atlas of the Artificial Night Sky Brightness.
National Geophysical Data Center. "Nighttime Lights From the International Space Station."
Bower, Joe. "The Dark Side of Light." Audubon (March-April 2000)
Owen, David. "The Dark Side. Making War on Light Pollution." New Yorker (August 2007).
Nightscape. International Dark-Sky Association.
International Dark-Sky Association
International Year of Astronomy 2009.


光害が生物に与える影響

 人間が夜をむやみに明るくするようになってから、100年あまりの時が経った。この間、周辺の環境に漏れ出す光の影響についての研究は、ほとんどされなかった。にもかかわらず、実験や観察をもとに得られたデータからは、こうした光が野生動物の移動、交流、食べ物の採取、さらには交尾相手の選択にまで影響を及ぼしていることが判明している。中でも有名な事例は、生まれたばかりのウミガメが、海辺を照らす街灯りに惑わされて、海を見つけられなくなるというものだ。こうした行動の変化は、鳥、ほ乳類、昆虫、爬虫類、両生類など、多くの生物種で報告されている。

 動物がどれもみな、光に対して同じ反応を見せるわけではない。夜行性の渡り鳥の多くは、光源に引きよせられ、明るいビルの周りをグルグルとまわったあげく、たいていは他の鳥とぶつかったり、疲れ果てて墜落するという末路をたどる。ピューマなどの動物は、夜間は明るい場所に近寄らないため、こうした場所には他の動物がやってくる。彼らは長時間かけて食物を探したり、ある種のコウモリなど、光に集まってくる獲物を狙う。しかし、餌探しが長くなるのはいい面ばかりではない。自分が捕食者から狙われる危険も増えるのだ。光害が複雑な生態系におよぼす影響は、まだ完全には解明されていない。

 また、人間が夜を劇的に変化させたことが、我々自身の健康に深刻な影響を与えるという証拠も見つかっている。人間の体は暗さと明るさの対比を頼りに、ホルモンレベルや睡眠時間といった24時間周期のリズムを調整する。このリズムが損なわれれば、深刻な事態を招くことも考えられる。専門家は、こうした事実が、夜が明るい都市での乳ガンの発生率が高いことと関係しているのではないかとしている。夜間に絶えず光にさらされるシフト勤務の女性作業員は乳ガンのリスクが高いことがわかっており、これはメラトニン(ホルモンの一種)の量が変わることが原因と言われている。また、盲目の女性は乳ガンになりにくいという調査結果もある。一般住民を対象とした研究では、住宅周辺の夜間の明るさと乳ガン発生率との相関関係が明らかになった。

参考資料
Longcore, Travis, and Catherine Rich. "Ecological Light Pollution." Frontiers in Ecology and the Environment. Vol. 2 , no. 4 (2004), 191-98.
Kloog, Itai, and others. "Light at Night Co-Distributes With Incident Breast But Not Lung Cancer in the Female Population of Israel." Chronobiology International (January 2008), 65-81.
Rich, Catherine, and Travis Longcore, eds. Ecological Consequences of Artificial Night Lighting. Island Press, 2006.
Stevens, Richard. "Artificial Lighting in the Industrialized World: Circadian Disruption and Breast Cancer." Cancer Causes and Control (May 2006), 501-07.


天の川が見えますか?

 夜空を見上げたときに、天の川は干上がってしまったのかと考えたことはないだろうか。光害は、人類全体の5分の1の人々から、夜空でもっともまばゆい輝きを放つ天の川を奪い去ってしまった。この現象が最も顕著な米国では人口の約3分の2が、欧州では人口の2分の1が天の川を見ることができない。

 米国北東部は、光害が特に深刻な地域のひとつだが、2003年の真夏に大規模な停電が起こり、周辺にはびこる光害がしばしの間消滅するという事件があった。その影響がいかに大きかったかは、カナダ人のトッド・カールソンが撮影した停電前と停電後の写真を見てもらうとよくわかる。

 自分の住んでいる場所の明るさを調べるための方法をいくつか紹介する。まずはこちらのサイトにある地図で地元の街を探してみよう。これはイタリアの光害科学技術協会が作成したもので、衛星データに加え、大気中の塵が拡散する光も考慮に入れて作られている。この他、国際ダークスカイ協会も地図を提供している。また「グローブ・アット・ナイト計画」のサイトには、世界中のアマチュア天文家から集めた、オリオン座の星がいくつ見えたかという情報を基に作られたデータベースがある。自分の街の夜間の明るさを測るには、住んでいる地域の夜空を同サイト上のチャートと比較してみよう。

参考資料
Cinzano, Pierantonio. The World Atlas of the Artificial Night Sky Brightness.
Globe at Night.
International Dark-Sky Association Dark-Sky Finder.
"Photo of the Week: The August 14, 2003 Blackout." SkyNews, 2006


暗闇をとりもどせ

 屋外の明かりをもっと夜空に優しくしたいという場合には、自宅でも職場でも地域でも、今ある照明を、無駄な光の拡散を防ぐようデザインされたものに替え、光を地面に集中させるとよい。国際ダークスカイ協会が推奨する商品には専用のラベルが貼られているので、それを目印に探すといいだろう。商品は同協会のサイトで見ることができる。ビルの場合は、そのビルが生態系に与える影響を最小限に抑えれば、米国グリーンビルディング協会が設けている環境配慮型ビルの基準「リード(LEED)」を満たしていることを証明する認定証がもらえる。LEEDは、新たに建築されるビルと既存のビルのどちらも評価対象としている。

参考資料
U.S. Green Building Council. LEED Rating Systems.
International Dark-Sky Association.


夜間照明を削減しよう

 光を無駄にすることは、つまりはお金を無駄にすることだ。照明を賢く使えば、夜空は元の暗さを取り戻し、収支も黒字になるだろう。国際ダークスカイ協会の試算によると、野外灯の光は、非効率的でお粗末なデザインのせいで、その3分の1が無駄になっているという。米国内だけでも、見当はずれの方向に放たれる光にかかる経費は、年間で100億米ドルにのぼる。

 公共の場を照らす明かりをつけっぱなしにすれば、地方自治体は莫大な費用を支出することになる。夜空に優しい照明を使うことで、財政負担を軽減できるだろう。カナダのカルガリーでは、2002年から2005年にかけて、照明部分が下に膨らんだ形の街灯の替わりに、照明がカサの中に収まっている、夜空に優しいデザインのものを採用した。3万7500基もの街灯を付け替える大規模事業となったが、年間で約1700万米ドルの光熱費が削減できるため、2012年までには経費の元が取れる計算だ。

 大胆な照明の改善をおこなったカルガリーは、光害対策の草分け的存在だが、この他にも多くの街で、特殊な照明の採用や消灯に関する法案作りなど、夜の闇を守る努力が行われている。都会にはない夜空の素晴らしさを実感したいという人は、こちらのサイトで、米国アリゾナ州フラッグスタッフの街の、条例で保護されている夜空を眺めて欲しい。あるいは、テントと寝袋をかついで夜空を眺める旅に出たくなったら、米国海洋大気庁の研究者スティーブ・アルバースによるレポートを読んでみよう。国立公園の中でも特に暗い公園がリストアップされている。国際ダークスカイ協会のサイトにも、夜空を堪能する旅のヒントや便利なツールが載っている。

参考資料
Albers, Steve, and Dan Duriscoe. "Modeling Light Pollution From Population Data and Implications for National Park Service Lands." National Oceanic and Atmospheric Administration.
"Astronomy Picture of the Day: A Protected Night Sky Over Flagstaff." NASA, April 16, 2008.
"EnviroSmart Streetlight Retrofit." City of Calgary.
"Dark Sky Observing Sites & Destinations." International Dark-Sky Association.
"Lighting Ordinances." International Dark-Sky Association.


明かりと防犯

 専門家によれば、治安と防犯の面から見ても、照明は明るければ明るいほどいいというものではないそうだ。光害の少ない照明を使うと、減能グレアと呼ばれる現象が起こりにくくなり、逆に安全性が向上するという。減能グレアは、強い光が目に入って散乱することにより、コントラストが把握しにくくなる現象で、影の中にいる人の姿も見えにくくなってしまうのだ。この現象は誰の身にも起こるが、年輩の人の目は若者の目に比べて、強い光を見た後の再調整に3倍の時間がかかる。

 動きに反応する照明は、光害防止にも犯罪防止にも有効だ。周囲に人がいないときには消えているため、無駄な光とエネルギーを使わずにすむし、誰かがそばを通ると明かりがつくので、周囲の人間に注意をうながす効果がある。

 「環境設計による防犯」は、空間設計に気を配ったり、照明を効果的に配置することによって、治安維持に役立つ方法を探ろうという運動だ。この理念は、「ニュージーランドにおける環境設計による防犯に関する国家指針」をはじめ、各地で公式の防犯計画に取り入れられている。

参考資料
Schieber, Frank. "Age and Glare Recovery Time for Low-Contrast Stimuli." In Designing for an Aging Population, ed. W. A. Rogers. Human Factors and Ergonomics Society, 1997.
"National Guidelines for Crime Prevention Through Environmental Design in New Zealand." New Zealand Ministry of Justice, November 2005.
International Clearinghouse on Crime Prevention Through Environmental Design.
"Earth at Night." National Geographic map supplement (November 2004).
Guynup, Sharon. "Light Pollution Taking Toll on Wildlife, Eco-Groups Say." National Geographic News, April 17, 2003.
Roach, John. "Dark Skies Initiatives Aim to Boost Stargazing." National Geographic News, May 16, 2006.
Tourtellot, Jonathan. "Travel Column: Hotels Cut Light Pollution, See Stars." National Geographic News, March 19, 2004.

     

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