|
|
||
|
カナダのオイルサンド MARCH 2009 |
文=ロバート・クンジグ 写真=ピーター・エシック カナダでは、油成分を含む砂「オイルサンド」の大規模な採掘が進む。富も環境汚染も生む、この新たな燃料資源の実態に迫った。黒くて粘り気が強く、冷えると固まるタール状の油。そんな扱いにくい物質を含んだ砂岩が、オイルサンド(油砂)だ。大量の水と燃料を使って砂から油を抽出すれば、ガソリンなどの原料となる「合成原油」をつくれるが、かつては生産コストや環境負荷の高さから採掘が見送られていた。だが、近年の原油の需要増と価格高騰で、原油に代わる資源として開発が本格化している。広大なオイルサンド鉱床が横たわるカナダのアルバータ州で、その実情を追った。 アルバータ州北部を流れるアサバスカ川の近くに、先住民居住区の一つ、フォートマッケイがある。ここで生まれ育ったチペワイアン族のジム・ブーシャは、1963年のある日の出来事をはっきり覚えている。 当時7歳だったブーシャはその日、祖父に連れられて、村の数キロ南の森に仕掛けておいた狩猟用の罠を調べに行った。この森は、カナダの国土の3分の1以上を占める北方針葉樹林の一部で、当時はまだほとんど開発の手が及んでいなかった。州政府が砂利道を整備するのは何年も先のことで、当時この村に向かうには、ボートか、冬場は犬ぞりしか交通手段がなかった。 フォートマッケイに暮らす先住民、チペワイアン族とクリー族は、外界からおおむね孤立して暮らしていた。ヘラジカやバイソンを捕らえ、アサバスカ川で魚を釣り、森でクランベリーやブルーベリーの実を集めるという伝統的な狩猟採集生活をする一方で、ビーバーとミンクを罠で捕獲し、毛皮を売って現金収入を得ていた。フォートマッケイは小さな毛皮の交易地で、当時は電気もガスも水道も電話もなかった。村にこうした文明の利器が入ってきたのは1970、80年代になってからだ。 とはいえ、少年だったブーシャが変化を肌で感じるようになったのは、1963年のその日、ミルドレッド湖近くの、祖父がよく罠を仕掛けていた動物の通り道に着いたときのことだった。「こうした道は、何千年も前からあったものです」。昨年の夏、フォートマッケイにある広々としたオフィスで、ブーシャは話してくれた。 「ところがその日行ってみると、いきなり森が開けて、目の前に広大な伐採地が広がっていました。70年代になると開発がさらに進み、祖父の丸太小屋も取り壊されてしまいました。事前の通告も話し合いも、一切ありません」 |
|